「世界で最も高いものは何ですか?」と聞かれたとき、多くの人は金やダイヤモンド、あるいは希少な絵画や不動産を思い浮かべるかもしれません。実際、資産価値や宝飾品としての価値を求めて「世界一高いもの」を検索する方は非常に多いです。しかし、私たちが日常で目にできるそれらの物質が、まるでおもちゃのコインやガラス玉に見えてしまうほど、桁外れの価値を持つ物質が科学の世界には存在します。
その代表格が、元素周期表の右下に位置する118番元素「オガネソン」です。人類がこれまでに手にしたことのある物質の中で、最も重く、そして最も謎に包まれたこの元素は、物理学的にも経済的にも私たちの常識を遥かに超越しています。「高価なものへの興味」からこの記事に辿り着いたあなたに、現代科学が到達した「究極の価格」をお伝えします。
この記事を読むことで、オガネソンの驚愕の推定価格はもちろん、なぜそれほどまでの価値がつくのかという科学的な裏側、そして金やプラチナを遥かに凌駕する「世界の希少物質ランキング」の真実を知ることができます。読み終える頃には、誰かに話したくてたまらなくなるような、最高峰の雑学が身についているはずです。
オガネソンの値段はいくら?1gあたりの「仮想価格」を算出

まず結論からお伝えすると、オガネソンには正式な「市場価格」というものは存在しません。なぜなら、オガネソンは自然界には存在せず、最先端の研究施設にある巨大な加速器を使って、原子単位で人工的に合成されるものだからです。
しかし、これまでに費やされた研究費、設備の運用コスト、そして合成に成功した原子の数から「1gあたりの単価」を計算すると、想像を絶する数字が浮かび上がります。
市場価格は「存在しない」が、製造コストは数兆円規模
オガネソンは、ロシアのドゥブナ合同原子核研究所(JINR)などの限られた施設でしか生成できません。1回の実験には数ヶ月の期間と、膨大な電力を消費する重イオン加速器が必要です。さらに、ターゲットとなる希少な同位体の入手費用や、世界最高峰の研究者たちの人件費を考慮すると、そのコストは天文学的です。
これまでに世界で合成されたオガネソンの原子は、わずか数個から十数個程度と言われています。原子1つを作るために数億円以上のコストがかかっている計算になるため、もしこれを「1g(約$2 \times 10^{21}$個の原子)」集めようとした場合、その費用は数百兆円、あるいはそれ以上の国家予算レベルに達すると推定されます。
また、仮に資金が無限にあったとしても、オガネソンを1g集めることは物理的に不可能です。その最大の理由は、オガネソンの極めて短い「寿命」にあります。
1g作るのに必要な「国家予算レベル」の費用とは
オガネソンの半減期は、わずか0.7ミリ秒(0.0007秒)程度しかありません。これは、生成された瞬間に別の元素へと崩壊を始めてしまうことを意味します。そのため、物理的に「1gの塊」として保存しておくことは現代の技術では不可能です。
しかし、科学者たちがこの「目に見えないほどの一瞬」のために巨額の予算を投じるのは、それが宇宙の真理を解明する鍵を握っているからです。オガネソン1原子を合成するために必要なカルシウム48という希少な同位体は、それ自体が1gあたり数千万円という高値で取引されています。
このように、原材料費、設備費、人件費のすべてが異次元のレベルであるため、オガネソンは「世界で最も高価な人工物」の筆頭候補として挙げられるのです。
なぜ買えない?オガネソンが「世界一入手困難」な3つの理由

「お金さえ出せば手に入る」という常識が通用しないのが、この超重元素の世界です。たとえ世界一の大富豪であっても、オガネソンを所有することはできません。ここでは、なぜオガネソンが物理的に入手不可能なのか、その理由を3つのポイントに絞って解説します。
1. 生成された瞬間に消滅する「0.7ミリ秒」の壁
オガネソンの最大の特徴は、その圧倒的な不安定さにあります。原子核があまりにも巨大であるため、自身の重さに耐えきれず、瞬時にアルファ崩壊を起こして別の元素に変わってしまいます。
人間が「あ、オガネソンができた!」と認識するよりも遥かに速いスピードで、それは別の物質(リバモリウムなど)へと姿を変えてしまいます。これでは、瓶に入れて持ち歩くことも、宝飾品として加工することも物理的に不可能です。所有するという概念そのものが成立しない物質なのです。
2. 地球上に自然界には存在しない「人工元素」
金やプラチナ、ダイヤモンドなどは、地球の地殻変動や宇宙からの飛来によって、自然界に存在しています。そのため、地道に採掘を行えば、いつかは手に入れるチャンスがあります。
一方で、オガネソンは自然界のどこを探しても見つかりません。超新星爆発のような極限状態であれば一瞬生成される可能性はありますが、地球上では人間が意図的に原子核同士を衝突させない限り、この世に出現することはないのです。つまり「買う」ための在庫がこの世のどこにも存在しません。
3. そもそも数個の「原子」単位でしか作れない
通常の物質は、数え切れないほどの原子が集まってできています。私たちが目にする「1g」の物質の中には、兆の兆倍といった膨大な数の原子が含まれています。
しかし、オガネソンの合成成功例は、歴史上でも指で数えられるほどです。原子1個ずつ積み上げていくような作業であり、物質としての「塊(マクロな量)」にするためには、現在の技術では何万年という時間が必要になります。
【比較】オガネソンよりも高い!?世界の高額物質ランキング

オガネソンの価値をより具体的にイメージするために、他の高額物質と比較してみましょう。私たちが普段「高い」と感じている金やダイヤモンドが、いかにリーズナブルな存在であるかが分かります。
ここで、1gあたりの推定価格に基づいたランキングを紹介します。
- 1位:反物質(推定6,250兆円)
- 宇宙で最も高価とされる物質。生成と保存に天文学的なコストがかかり、1gあれば地球上の全エネルギー問題を解決できると言われるほどのエネルギーを持ちます。
- 2位:オガネソン(推定数千兆円 ※理論上の合成コスト)
- 今回紹介している118番元素。1gあたりの合成コストは反物質に匹敵するか、効率を考えればそれ以上になる可能性もあります。
- 3位:カリホルニウム(1g 約30億円)
- 人工元素の中では「実際に購入・取引される」ことがある最高額クラスの物質。中性子源として医療や資源探査に利用されます。
- 4位:ダイヤモンド(1g 約600万円 ※品質による)
- 宝石の王様ですが、上位の元素と比較すると驚くほど「安価」に見えてしまいます。
- 5位:金(1g 約1万3,000円 ※2024年時点)
- 投資対象として人気ですが、オガネソン1原子の合成費用で、数トンの金が買えてしまう計算になります。
このように、科学研究の最前線で扱われる物質は、私たちの金銭感覚を遥かに超越した価値を持っています。
オガネソンを発見した「ユーリ・オガネシアン」と今後の展望

これほどまでに高価で、かつ一瞬で消えてしまう元素に、なぜ人類は挑み続けるのでしょうか。その背景には、一人の偉大な科学者の存在と、人類の飽くなき知的好奇心があります。
存命中の人物名が冠された稀有な元素であるエピソード
オガネソンの名前は、ロシアの物理学者ユーリ・オガネシアン教授にちなんで命名されました。通常、元素名は発見者の死後に功績を称えて名付けられることが多いのですが、オガネソンは教授が存命中にその名が冠された、極めて珍しいケースです。
彼は「超重元素の父」と呼ばれ、周期表の限界を押し広げる研究に人生を捧げてきました。彼が率いるチームは、118番までの元素をすべて埋めるという、化学史に残る偉業を成し遂げたのです。
119番以降の新元素発見に向けた日本の「ニホニウム」チームの動向
オガネソンで周期表の第7周期は完成しましたが、科学の探求はここで終わりではありません。現在は「第8周期」の幕開けとなる、119番元素や120番元素の発見に向けて、世界中で激しい競争が繰り広げられています。
日本においても、理化学研究所(RIKEN)のチームが113番元素「ニホニウム」を発見した実績を持ち、現在は119番元素の合成に挑んでいます。もし新元素が発見されれば、現在の物理学の常識を覆す「安定の島(重い元素でも寿命が長い領域)」に到達できるのではないかと期待されています。
この「安定の島」に到達することができれば、数ミリ秒で消えてしまうオガネソンとは違い、数分、あるいは数日間も存在し続ける超重元素が誕生するかもしれません。そうなれば、いつの日かこれらの元素が実用的な価値を持ち、本当の意味での「値段」がつく日が来る可能性もゼロではありません。
【結論】オガネソンの値段と価値まとめ:1g数千兆円のロマン
ここまで解説してきた通り、118番元素オガネソンは、私たちの日常的な金銭感覚では到底推し量ることができない存在です。最後に、この記事の内容を端的にまとめます。
- オガネソンの値段: 市場価格は存在しないが、1gあたりの合成コストを仮想的に算出すると「数千兆円」から「国家予算レベル」に達する。
- 入手困難な理由: わずか0.7ミリ秒という超短命な半減期、自然界に存在しない人工物であること、および原子単位でしか生成できない技術的限界により、一般の入手は不可能である。
- 高額物質としての立ち位置: 世界の高額物質ランキングでは反物質に次ぐ第2位に位置しており、金やダイヤモンドが安価に感じられるほど異次元の価値を持っている。
- 今後の展望: 存命の科学者オガネシアン教授の名を冠したこの元素をゴールとせず、現在は日本を含む世界中のチームが119番以降の新元素や「安定の島」の発見を目指して挑戦を続けている。
オガネソンという名前に刻まれているのは、単なる数字としての値段ではなく、未知の領域を解明しようとする人類の情熱そのものです。次に周期表を見る機会があれば、ぜひ右端に鎮座する「Og」の文字に、科学者たちが追い求める究極のロマンを感じてみてください。
▼参考にした外部サイト
- 国際純正・応用化学連合 (IUPAC) – 118番元素オガネソンの命名と公式発表 https://iupac.org/iupac-announces-the-names-of-the-elements-113-115-117-and-118/
- ドゥブナ合同原子核研究所 (JINR) – オガネソン発見・合成の研究拠点 http://www.jinr.ru/main-en/
- 理化学研究所 (RIKEN) – ニホニウム発見の経緯と119番以降の新元素探索 https://www.riken.jp/pr/news/2016/20161130_1/