街を歩けば必ず見かける「PORTER(ポーター)」のロゴ。なぜこれほど長く愛され続けるのか、その秘密は製品だけでなく、トップの「決断」にありました。
今回は、吉田カバン(株式会社吉田)の社長がいったい誰なのか、そしてなぜ頑なに「非上場」を貫き、日本国内での生産にこだわり続けるのか。その経営手腕について、公開データを元にした独自の計算を交えて徹底解説します。
【結論】現在の社長は「吉田義久」氏。創業者の魂を継ぐ3代目
結論から申し上げますと、現在の吉田カバンの社長は吉田義久(よしだ よしひさ)氏です。
彼は、創業家の一族にあたります。
具体的には、創業者である吉田吉蔵(きちぞう)氏の孫であり、ブランドを大きく飛躍させた2代目社長・吉田滋雄(しげお)氏の想いを受け継ぐ3代目社長として指揮を執っています(※数年前に就任)。
多くの有名ファッション企業が、経営のプロを外部から招いたり、大手アパレルの傘下に入ったりする中、吉田カバンは依然として「同族経営」を貫いています。
「いまどき同族経営なんて古くない?」
そう思うかもしれません。しかし、吉田カバンに関して言えば、この血縁による継承こそが、あの「壊れない、使いやすい」という品質を守るための最大の防衛策となっているのです。
証拠:吉田カバン歴代社長と「タンカー」など名作誕生の歴史
吉田カバンがただのバッグメーカーではないことは、その歴史を見れば一目瞭然です。社長が代わっても、絶対にブレない軸がある。
ここでは、歴代社長の時代に何が起き、どんな名作が生まれたのかを「独自の年表」で整理しました。
吉田カバン歴代トップとヒット作の相関年表
| 時代・トップ | 人物名 | 主な出来事・功績 | 誕生した名作 |
| 初代(創業) | 吉田吉蔵 | 1935年創業。「一針入魂(いっしんにゅうこん)」の精神を掲げる。関東大震災の経験から「荷物を運ぶ道具」としての鞄の重要性を説く。 | エレガントバッグ (皇皇后陛下ご成婚時の献上品) |
| 2代目(拡大) | 吉田滋雄 | 1962年に自社ブランド「PORTER」を発表。「カバンは主役ではなく、持つ人を引き立てる脇役」という哲学を確立。 | TANKER(タンカー) LUGGAGE LABEL (通称:赤バッテン) |
| 3代目(現在) | 吉田義久 | 創業80周年、85周年などの節目を指揮。海外ブランドや異業種(ポケモン、ジブリ等)とのコラボを積極的に展開し、ブランドの鮮度を維持。 | 100%植物由来ナイロンへの素材刷新 (タンカーのリニューアル) |
こうして見ると、初代が「技術」を作り、2代目が「ブランド」を作り、現在の3代目・吉田義久社長がそれを「時代に合わせて進化」させていることがわかります。
特に注目すべきは、最近の「TANKER(タンカー)」シリーズの刷新でしょう。
長年愛された素材を、環境に配慮した「100%植物由来のナイロン」に切り替えるという決断は、単なるコスト削減を狙う経営者には絶対にできません。これは、創業家のDNAを持つ社長だからこそできる「未来への投資」だと言えます。
なぜ「非上場」を貫くのか?インタビューから読み解く社長の哲学
吉田カバンほど知名度があれば、株式を上場して巨額の資金調達をすることは簡単なはずです。
しかし、彼らはそれをしません。なぜでしょうか?
過去の雑誌インタビューや、業界紙での発言を紐解くと、そこには明確な「職人を守るため」という意志が見えてきます。
もし上場してしまえば、株主から「もっと利益を出せ」「コストを下げろ」と要求されます。
そうなると、どうなるでしょうか。
- コストの高い「日本の職人」を切る
- 人件費の安い海外工場へ生産を移す
- 品質が落ちる
この「負の連鎖」を断ち切るために、あえて非上場(株式会社吉田のまま)を選んでいるのです。
社長や経営陣がメディアで語る「メイド・イン・ジャパンを絶やさない」という言葉。これは単なるスローガンではなく、「自分たちが株主の言いなりにならないことで、職人の生活と技術を守る」という、覚悟の表れだと私は解釈しています。
【独自考察】数字で見る吉田カバンの経営力
では、その経営手腕は数字としてどう表れているのでしょうか?
吉田カバンは非上場のため、詳細な決算書は公開されていません。しかし、リクルートサイトや企業調査データなどで断片的に公開されている数字を組み合わせることで、その「凄み」が見えてきます。
ここで、独自に計算を行ってみました。
従業員1人あたりの売上高を計算してみた
公開されている直近のデータ(推定含む)を基に計算します。
- 根拠A(推定売上高): 約170億円前後(過去の業績推移より推定)
- 根拠B(従業員数): 約170名前後(本社勤務など)
この数字を割り算してみましょう。
170億円 ÷ 170人 = 1億円
なんと、従業員1人あたりの売上高が約1億円という計算になります。
ここから分かる「職人重視」のホワイトな経営体質
この「1人あたり1億円」という数字、実はアパレル・小売業界では驚異的な高さです。
一般的なアパレル企業の場合、多くの販売員を抱えるため、この数字はもっと低くなる傾向があります。
なぜこれほど生産性が高いのか? ここから2つの推測が成り立ちます。
- 「営業」をしなくても売れるブランド力良い製品を作ることに集中しているため、無理な営業活動や広告宣伝に大量の人員を割く必要がない。つまり、商品そのものが営業マンの役割を果たしているのです。
- 少数精鋭の企画集団社内の人間は「企画」や「品質管理」に集中し、製造は外部の協力工房(日本の職人たち)と連携するスタイルをとっていると考えられます。
社長の年収についても正式な公表はありませんが、これだけの高収益体質企業のトップです。一般的な中小企業の社長の数倍、あるいは数千万円〜億単位の報酬を得ていても不思議ではありません。
しかし、彼らの使い道は派手な生活ではなく、「より良い素材の開発」や「職人への工賃」に還元されている。そう信じさせてくれるだけの品質が、あのカバンにはあります。
吉田カバン社長のまとめ:流行を追わず、伝統を守るリーダー
吉田カバンの社長について調べていくと、単なる「偉い人」ではなく、日本のモノづくり文化の「守護者」のような姿が浮かび上がってきました。
- 現在の社長は創業家出身の吉田義久氏
- 「一針入魂」の精神を守るため、あえて非上場を貫く
- 従業員1人あたりの生産性は約1億円レベル(独自試算)と推測され、筋肉質な経営を行っている
安くて使い捨てのものが溢れる時代に、修理をしてまで使いたくなるカバンを作る。
その背景には、流行に流されず、頑固なまでに信念を貫く社長の経営手腕がありました。
もし次に店頭でポーターのカバンを手に取ることがあれば、その縫い目の向こう側に、職人を守り抜く社長の顔を思い浮かべてみてください。きっと、今までとは少し違った重みを感じるはずです。